前置き
皆さんは日本語教師の養成講座や勤務している日本語学校でこんなこと言われたことがありますか?
「自分のことを「先生」と言わないでください」
色々な先生に聞くのですが、言われたことがあるかないかは結構バラバラです。
今までたくさんの日本語の先生を見てきましたが、授業中に自分のことを「先生」と言う人がいます。「○○先生」と自分の名前まで言う人もいます。
「○○先生の趣味はテニスと旅行です!」
のような言い方ですね。
結論から言うと、私は自分のことを「先生」ということを良く思ってはいません。
いくつかの面では有効な手段でもあると思っているので、決して全否定しているわけでもありません。
ただ、ネットで「自分のことを先生と言う人」「先生 一人称」などで検索してみると、否定的な意見の記事がたくさんでてきます。
こういった否定的な意見があることや自分のことを「先生」ということのメリット、デメリットを理解していない教師も多いと思うので、記事にしてみることにしました。
日本語教師が自分を先生と呼ぶことについて
まず、「先生」という言葉の意味を確認してみましょう。
教師・師匠・医師・代議士など学識のある人や指導的立場にある人を敬っていう語。呼びかけるときなどに代名詞的に、また人名に付けて敬称としても用いる。
このように「自分が教えを受けている人」「師匠」「敬称」など敬意を表す対象に使われる言葉だということがわかりますね。
念のため、「敬称」という言葉の意味も確認しておきましょう。
人名や官職名の下に付けて、その人への敬意を表す語。「様」「さん」「くん」「殿」など。
ここにもはっきり書かれているように「敬意を表す語」ですね。
同じ敬称として「様」「さん」「くん」などと書かれていますが、自分のことを「○○様」「○○さん」ということはないですよね。
それにも関わらず、なぜ「○○先生」と自分のことを呼ぶ教師がいるのでしょうか。
「敬称」の意味で使われている「先生」という言葉を自分に使っている人は、深層心理で学生より自分の方が上だと思っている人が多いと思います。
現に、さまざまな経験を持っていたり、年齢が上の学生でも、日本語が片言なだけでまるで子供を相手にしているような態度で接している先生も多いと感じます。
日本語が流暢な相手だと、年上の日本人を相手にしているように恐縮した態度になり、自分のことを「先生」と呼ぶことも自然に少なくなります。
確かに片言な日本語は年齢に関係なく愛おしく思えてしまうものですけどね(笑)
ただ、日本語教育において、「自分のことを「先生」と呼ぶこと」にはメリットもあると感じます。
一つは、「先生」という言葉の意味は、「日本語を教えている私のこと」だと相手に認識させられることです。
入門のクラスだと「先生」という言葉も知らない学生もいます。
その時、何度も「先生」と繰り返すことで「先生」という言葉をしっかり定着させることができると思います。
まぁこの考え方は、小さい子供に自分のことを「お母さん」「お父さん」と呼ぶことで子供に認識させるというところからきていますが、大人である学習者が「先生」という単語を「先生」と認識するのに時間がかかるとは思えないので、あまりメリットにはならないですが・・
無理やりメリットとして挙げてみました。
普段の授業の中で自分のことを「先生」と呼ぶのはやはり賛成はしないのですが、学習する文法などによっては一人称として「先生」を使うことは大きなメリットになることもあります。
例えば、学生が混乱しやすい「あげもらい」を教える時などは、「あげる」と「さしあげる」の使い方の差を見せるために、先生を偉い人であるという立場として、実際に動きを見せるとわかりやすいですよね。
おまけ
本来、他の人の呼び名として使われる言葉を自分に使う場合もいくつか挙げてみます。
何か困ったことがあれば、いつでもお巡りさんに言ってね。
わがままばかり言っていると、お母さん怒るよ!
お名前は何て言うの?おじちゃん/おばちゃんに教えて?
どの状況を見ても、「子供」に対して話している状況がイメージできますね。
そのため「先生」を一人称で使うことは、やはり相手を子供のように思って接していると思われてもしょうがないですね。
まとめ
いかがでしたか?
自分のことを「先生」と呼ぶことはどう思いますか?
決して教師が学習者を下に見て、悪気があって使っていることはないと思います。
それは周りの先生もわかっているでしょう。
ただし、ネットで調べるだけでも、自分のことを「先生」と呼ぶ人に対する否定的な意見も多く、日本語学習者の中にも同じような考えを持ってる人はいるかもしれません。
そのため、私はメリットよりデメリットの方が大きいと思いますので、あまり自分のことを「先生」と呼ぶことはお勧めしません。
留学生を対象とした日本語学校では、比較的年齢も若く、仕事の経験も少ない学生が多いと思います。
ただ、生活者向けの教室ですと、教師より年齢も上で、色々な経験を持っている学生も多くなると思いますので、余計に注意しなければいけないと思います。
もしそれでも使いたいという教師がいれば、上記に記載したようなデメリットを理解した上で使ってもらえたらと思います。
日本語学校によって、どうするかルール化されている学校もあるかと思うので、心配であれば最初に確認しておくと良いでしょう。