前置き
このタイトルを見てしっくりこない方もきっと多いでしょう。
日本語を教える専門家がどうして他業界のことを知らなければいけないのか。
それを知るぐらいなら、より日本語教育の専門的知識を身に付けた方がいいのではないかという方もいるでしょう。
確かに日本語教育を専門として研究をしている大学教授などであればその方がいいでしょう。
今回の記事については、実際に教壇に立っている日本語教師の皆さんに向けた記事だと思ってください。
日本語教師として他業界を知るべき理由
考えられる理由がいくつかあるので、複数に分けて説明します。
外国人労働者の増加
現在、日本で働く外国人労働者は年々増加しています。
令和元年の時点で、約166万人の外国人労働者が日本に滞在しています。
更に、毎年前年比10~20%増加し続けています。
詳細は厚生労働省のページにある「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和元年10月末現在)を見てください。
今まで留学生を対象とした日本語教育がメインでありましたが、それも多様化し、これからは日本でさまざまな業界で活躍している日本語学習者に日本語を教える機会が増えていくでしょう。
就労者を対象としている日本語教育を行っている教師と話す機会がありますが、多くの教師が業界についてや業界で使われる専門用語などを学びたいと話しています。
グループレッスンであれば、業界に特化した授業にはなりにくいですが、プライベートレッスンであったり、企業から依頼されたレッスンをしてみると、自身の業界の理解が乏しいために、効率が悪い教え方になってしまうことを痛感すると思います。
IT業界を例にしてみます。
IT業界といっても幅広いですが、業界を知らない人は常にPCの前でプログラムを打ち続けているような印象しかないでしょう。
ただ、プログラマーであっても、クライアントの求めるイメージを把握するために、入念にイメージをすり合わせなければなりません。
周りに通訳がいなければ、かなりの日本語力が必要になることがわかりますよね。
教師は実際に学習者が仕事のどのような場面で日本語を必要としているか、どんな日本語が必要なのか、そこまで把握するべきでしょう。
もちろん、日本語教育の知識をしっかり身に付けた上でですが、今後はこのような知識の差が教師としての差になっていくでしょう。
学習者の日本語教師に対する信頼
これは実際に日本語教師として活躍している方ならわかると思います。
しっかりと学習者と信頼関係を作れている教師であれば、学習者から「日本語学習」以外のこともさまざま相談を受けます。
交友関係が広い学習者ならともかく、彼らにとっての「日本人」は日本語の先生だけということもあります。
例え専門的な知識であっても日本人ならわかるだろうと質問してくることも多いです。
特に国民性にもよりますが、「先生」という職業はとても信頼されている職業でもあるんですよね。国によっては「先生の日」というものがあり、毎年メッセージをくれる学習者も少なくありません。
そのような学習者の力になるためにも、彼らが直面するだろう問題にはある程度精通しておくに越したことはないでしょう。
それでも「餅は餅屋」という教師もいると思います。
人材紹介、不動産などは専門性が高いので、プロに任せた方がいいという気持ちもわかりますが、実際それらの仕事をしている方々が皆正しい道を示してくれるかというとそうではありません。私自身、過去にそのプロに騙されるような形になってしまった外国人を多くみています。
今では私も、業界の知識や人材紹介の仕組み、不動産の専門的知識、その他ビザのことなどの知識を人並み以上に習得しました。
それにより、学習者自身の選択肢を増やすことができ、間違いのないアドバイスをできるようになったと感じています。
過去に日本語教育以外のことについて相談、お願いされた一部を紹介しましょう。
キャリア相談(どんな仕事が合っているかなど)
引っ越し、不動産相談(不動産に関すること(手数料など高いかどうかなど))
恋愛相談(主に対日本人との恋愛について)
仕事や生活のトラブル(会社が社会保険や雇用保険に入っていないなど)
ビザの相談(ビザの申請方法、雇用理由書の書き方の相談など)
緊急連絡先、連帯保証人のお願い(連帯保証人にはなっていないですが・・)
日本語学校によっては学生との個人連絡先の交換は禁止されているケースもありますが、特にそういうルールもない学校であれば、余計にこういう相談は増えると思います。
私自身、7~8年前は台湾で日本語を教えていましたが、今でもその頃の学生から相談事を受けています。
そのため、幅広い知識や経験が日本語教師では活かすことができるんですね。
日本語業界の価値向上
日本語教育の仕事はとてもやりがいがある仕事ですが、世間的な価値はあまり高いものとは言えません。
それは待遇にも反映されていると思いますし、日本人なら誰でも日本語を教えられるという世間の声も未だに少なくありません。
実際、オンライン講師などを見ると、資格も持つ教師より、資格を持たない教師の方が人気を博しているケースも多いです。
日々の授業に追われ、教案を作成することでいっぱいいっぱいとなっている教師は、知識やスキルは身につかず、実際に資格を持たない日本人より劣ると感じる教師もいます。
資格を持たない教師で人気がある人は、「外国語能力が高い」「コミュニケーション能力が高い」など別のスキルを持っていることが強みですよね。
以下の計算式を見てください。
資格を持つ日本語教師
日本語教師レベル10 × 語学レベル2 × コミュニケーション能力2 =40レベル
資格を持たない日本語教師
日本語教師レベル2 × 語学レベル10 × コミュニケーション能力5 =100レベル
日本語教師の知識だけでなく、日本語を教えるために必要な他の能力を掛算してみると、資格のない日本人に劣ってしまうケースがあります。
私は今の世の中は、この掛算の法則がとても大事だと思っています。
一つの能力を追求していく人より、さまざまな能力を身に付けている人の方が圧倒的に活躍している時代です。
例えば芸能人なら「芸能人」×「小説家」「起業家」「映画監督」など、2つ以上の武器を持つ人が成功してますよね。
これは会社でも同じです。現在はほとんどの業界が「IT」と掛算した事業を展開しています。
実際、最近企業から日本語教育についての相談を受けるとき、「○○業界」に合わせた教育を実施してほしいと言われることがあります。
そうなると、この掛算の法則の通り、日本語教育だけでなく、業界の知識にも理解がある教師がよりレベルが高く、求められる存在であることがわかりますよね。
皆さんもさまざまな知識や経験を得て、「唯一無二日本語教師の」を目指してもらえたらと思います。
まとめ
「日本語教師が他業界を知るべき理由」について記載しました。
この日本語教育業界をより価値のあるものにしていくためには、個々の教師のスキルアップが不可欠です。
スキルアップというのは決して日本語教育に精通することだけでなく、他の知識や経験を得ることも必要なことです。
「日本語教師」を軸として、「日本語を教えること以外」でも活躍できる教師が増えていけばいいなと思います。
それにより、日本語教師の活躍の幅が広がり、業界全体が成長していくと嬉しいですね。